inevitabile 瀬乃なつき
「見てっ!!みてみてゼパル!!!」
ゼパルは振り返り、フルフルの方を見た。
その瞬間、ゼパルの顔色がさぁっと青白くなり、今までに見たこともないような表情を作った。
「え…ちょ…フルフルそれ……」
ゼパルが驚くのも無理はない。
何故かフルフルの胸部に異様な膨らみがあるのだ。
「フルフルってつるぺったんだったよね……?」
「気づいたらおっぱい生えてきたの!!」
「嘘だあああああああああああ!!!!!!!」
「嘘だよ?」
その瞬間フルフルの胸は爆ぜ、いつものぺたりとした胸に戻っていた。
「驚かさないでくれよフルフル!!一瞬本当かと思っちゃったじゃないか!!!」
「私の胸が出てくるなんて、そんなこと奇跡が起きない限り絶対にありえないわ!」
「奇跡……」
ゼパルは、奇跡という単語に反応する。
「奇跡……ね……。大分昔にいたわね、くすくす。」
「僕たちに奇跡を起こしてほしいと頼んできた少女がいたね。懐かしいなぁ。」
「じゃあ今日は紅茶を飲みながら昔話でもしましょうよ。」
「そうだね、賛成!僕はアッサムがいいな。」
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二人の悪魔は、薔薇庭園の東屋で紅茶を飲みながら過去の話に夢中になっていた。
話というよりは、こちら側の私たちに語りかけるように会話していた。
「いつ頃だったっけ、彼女に出会ったのは。」
「さあ、いつ頃だったかしら。でも、遠い遠い昔の話。私たちは少女に呼ばれた。これが始まりだったわ。」
急に辺りが暗くなった。
そこに小さな光がぽうっと集まって円状になり、その光が何かを映し出している。
多分、二人の悪魔の回想を映し出したものだろう。
そこにはぼやけていて見えづらいが、二人の悪魔と少女の姿が映っていた。
――――――キセキヲ、起コシテ下サイ。
ワタシニ会イニキテクレルダケデモ、
覚エテイテクレナクテモイイカラ。
タダ、彼ノ顔ガミタイダケナノデス。――――――
「君の願いを叶えてあげてもいいよ。でも、君は本当に彼が会いにきてくれたことを、奇跡と思えるかい?」
――――――ドウ言ウ意味、デスカ…?――――――
「あなたはそれを、必然のことであると思い込んだりしない?私たちが起こした奇跡ではなく、それは彼が会いにくるという“必然的なこと”であったと勘違いしたりしない?」
―――――…………ヨク、ワカラナイ。―――――
「例えば、今日の宿代も払えないくらい貧乏な旅人がいたとするよ。その旅人が道を歩いていたとき、目の前にぶ厚い財布が落ちていたとする。」
「その旅人が、その財布は神様からの施し物だと信じて疑わなかったとするわ。そうすれば、旅人は奇跡が起きたと大喜びするはず。」
「でも逆に、その旅人が奇跡を信じていなかったら。自分が見つけようが見つけまいが、他人が見つけようが見つけまいが、必ずそこに落ちているものだと思ってしまえば、たとえ奇跡だろうが何だろうが全て“必然的にそこに落ちていた”ということになってしまう。」
――――――ナントナク、ダケド解カッタカモシレナイ。――――――
「あなたに覚悟が。これは魔法や奇跡だと信じて疑わないと誓えるのならば。」
「僕たちは君に力を貸そう。本当に、覚悟があるならば。」
――――――コノ思イニスベテヲ賭ス覚悟ハ、モウデキテイマス。
タトエドノヨウニ終ワロウトモ、決シテアナタタチヲ恨マナイ。ダレモ憎マナイ。
後悔ハ、絶対ニシナイ。――――――
「なら、私たちはあなたの願いを叶えるわ。」
「僕たちも、君の願いが最善の形で叶う様願っている。」
――――――アリガトウ、…ゴザイマス。――――――
「あの子、誓ったわ。…死ぬまで人を恨まずに生きなければいけないのね。」
「可愛そうに。自分を恨むことも、他人を恨むこともできないなんて。それはきっと、永遠の拷問にも似た
ぽうっ、と光は消え、映像は何も見えなくなった。
そして辺りは明るさをとりもどしていく。
「あーあ…途中で映像が切れちゃったじゃない。それに紅茶も冷めちゃったわ。」
「まあ良いじゃないか。ケーキもおいしいよ。…おっと、大変。用事があるのを忘れてた。すぐ帰ってくるから待ってて!」
ゼパルは黄金の蝶に姿を変え、どこかへ飛んでいってしまった。
辺りは静まり返り、残されたフルフルの他には、寂しく風に揺れる金色の薔薇たちと、冷めた紅茶と甘いお菓子だけが残された。
「…ところであなたは奇跡を信じることができるかしら?」
ケーキを食べながら、フルフルが語りだす。
「あなたには、奇跡を望む資格があるかしら。ひとつの望みに全てを賭す勇気があるかしら。」
にやり、とフルフルは似合わない笑みを浮かべる。
「あなたに、全てを理解することができるかしら?」
――――――――――ソレハ永遠ノ拷問ニモ似タ、
一生抜ケ出スコトノデキナイ、地獄ノ迷宮――――――――――